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一般ソフトウェア向け翻訳支援ツールがゲームにフィットしない理由と今後の展望

7/17/2013

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お久しぶりです、矢澤です。

ここのところいくつかの翻訳支援ツール開発会社とお話させていただく機会があり、自分の中でいくつか整理できたことがあったのでここで共有します。

整理できた事項とは、題名にあるとおり「一般ソフトウェア向けの市販翻訳支援ツールがゲームにフィットしない理由」です。これは同時に、なぜゲーム翻訳でExcelがこれほど幅を利かせているかを説明するものでもあると思います。

情報密度を高めるべく、さっそく To the point に書き始めようと思います。

必要とされる文脈情報の種類が多い一般にソフトウェア翻訳には次のような特徴があります。

  • プログラミング言語のリソースファイル (rc や resx、properties) にテキストデータが集められている
    • 以下、その 1 単位を "文字列" と呼称
  • リソースファイルには文字列ごとに一意のIDが振られている
    • 例: mainmenuitem_file="&File"
  • 種類は通常「GUI テキスト」だけ
  • スムースなプロジェクトでは、ID から用途が判別できる
対してゲームの翻訳においては次のような特徴があります

  • テキストデータは多くの場合人間にとって可読性の高い、自動生成でない形式で集められている
    • Excel のスプレッドシートなど
  • リソースファイルに文字列ごとに一意のIDが振られている点は同じ
    • 例: combat_tutorial_attack_1
  • 種類は「音声収録用セリフ/字幕」、「システムメッセージ」、「テクスチャに埋め込まれたテキスト」、「ゲーム内テキスト」
  • 構造があまりに複雑であるため (※下記参照)、ID だけでは内容を十全に把握できない
この違いが生じる理由はおそらく以下のようなものだと思います。

一般的なソフトウェアはエンターテインメント用途でないため、「何らかの生産的なタスクを完了させるために使用されるため、何ができるかをできる限りわかりやすくすべて伝えられるよう設計されている」のに対し:

ゲームは「プレイヤーに何らかの (願わくば楽しい) 体験をさせることが目的で、次に何が起こるのかわからないから楽しい」側面がある

結果として、ゲームは一見してすべて把握できるような作りにはなりにくい、と言えます。

このような差があるため、ゲームのテキスト、特にセリフまわりについては詳細な文脈情報が必要となります。まったく文脈情報がないと、「殺せ、何々人だ」という翻訳が生じるわけです。たとえば "何々人" の例で言えば、「その時の状況」が本当にしっかり把握できていれば翻訳者としてもカンの働かせようがある、と言えます。

詳細については今年の CEDEC セッション「翻訳者が欲しい情報とその理由:開発者にできる事とするべき理由」で紹介する予定です。
また、話者の情報が必要な理由については下記でも解説しています。

ダイアログ翻訳に聞き手の数と性別が必要な理由 from Ryuta Yazawa
では現状の市販ツールはしかし現状、翻訳支援ツールには、通常コメント列が1つある程度でそれほどたくさんの種類の文脈情報を格納する場所がありません。なので現時点では多くの会社が自社でシステムを開発するなどして、これらのゲーム固有要件を満たそうとしているわけです (あるいはひとつのコメント欄にすべての情報を詰め込む)。

しかし矢澤は、これから 2 つのムーブメントが起きればブレイクスルーが起きると思っています。

ブレイクスルーに向けてツールが柔軟なデータ構造を許容するようになる今後矢澤が個人的なミッションとして取り組んでいきたいことがこの点です。

たとえば既存の翻訳支援ツールが複数のカスタムカラムをサポートするようになれば、物事は大きく変わるでしょう。つまり「ID と原文と訳文以外に、自分の好きなデータを並べて表示できるようにする」ということです。これらは GDC で発表されているだけでも Microsoft、Blizzard、Square Enix、SCE、Ubisoft といった企業が社内システムですでに実現しており、ゲーム業界ではほぼ必須の要件となっています。

今後ソフトウェアのサービス化やインタラクティブメディアとの融合が進んでいけば、遅かれ早かれ翻訳支援ツール開発会社は時流に合わせた機能を提供していくことになるわけで、それが (本来は新しい用途に対応するための施策であるにせよ) 結果的にゲームのローカライズでも有益な影響をおよぼすのではないか、と矢澤は予想します。

ソフトウェアのオープン化矢澤は様々なオケーションで「ゲームの翻訳は毎回違う動物が運び込まれる救急獣医院のようだ」と語っています。そのような状況で、ツールの開発会社がすべての要求に対応するのは不可能であり、(リソースは有限なので) やろうとすればどこかが破綻します。 ここで Unity アセットストアのような仕組みが広く普及すれば、必要な人が自分のために作ったツールが流通するようになり、結果として提供側も利用側もハッピーになれると考えます。

駆け足になりましたが、本日は以上です。

なお工夫次第では現在でも市販翻訳支援ツールを用いた効率化は可能です。 気になったら SDL Passolo や MemoQ Server、Alchemy Catalyst などで検索してみてくださいね。あるいはcontact@kakehashigames.com までお問い合わせいただいても結構ですよ! (ステマ)

 
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